【授業紹介】高2論理国語・対話的読書 〜著者とのコール&レスポンス〜
「紙に書かれた思想は一般に、砂に残った歩行者の足跡以上のものではないのである。歩行者のたどった道は見える。だが歩行者がその途上で何を見たかを知るには、自分の目を用いなければならない。」 文章家としても名高い哲学者ショーペンハウアーは、その著作「読書について」で読書の難しさについてこう述べています。
今回高校2年生は「たどった道を見ることすら難しい」文章に取り組みました。
2023年6月半ば〜7月初旬の論理国語の授業(全9コマ)で、「対話的読書」と称した探究スキルラーニングを実施しました。(担当:辻井)
セネカ、ヒポクラテス、デューイ、ポワンカレ、岡本太郎といった様々な分野の「古典」の抜粋から一つ選び、「テキストの著者と自分のLINE風のトーク画面を作成する」ことが今回のミッションです。
これには著者のことばにレスポンスし、話題を深め、発展させていくことが求められます。
著者との「コール&レスポンス」を盛り上げるため、
①マルジナリア(テキストへの記号やメモ、線の書き込み)
②二次文献調査
③グループワークでの相談 この三つを徹底して行いました。
②〜③と並行し、生徒は著者とのトーク画面をGoogleスライドで作成していきます。
テクストからの引用と、それを噛み砕いた言葉をフキダシに記入し、相槌や他の見解といったレスポンスを続けていきます。
「ところで」「確かに」「しかし」などの接続語を意識して取り入れることで、会話の流れが自然になるようにします。トークをつなぐために必要になった他の文献を探したり、筆者の言葉の意味を考えるために改めて課題文を読み直したり、生徒はテクストを行ったり来たりします。
これらのプロセスは生徒にとっては慣れないもので、特に②の調査フェーズでは、自分が気になっていることは何なのか、得た知識をどう深めるのか、そもそも山ほどある中でどの本を選ぶか、戸惑う姿が見られました。
しかし、コマを重ねてとにかく読みまくる中で、多くの生徒が知識の繋げ方を体感できたようです。
成果物提出後の生徒の振り返りを一部紹介します。
・読んだり調べたりする過程は大変だったけど、自分の意見がはっきりできて楽しかったし、自分の考え方が改めてわかって、自分自身を理解することが出来る機会になったと思った!
・ただ読むだけよりも対話的読書をしたあとの方が読んだ課題書に対しての意見や考え、その周辺の知識が深まって楽しかったです。
・ポアンカレは宇宙の形に関するポアンカレ予想と言う100年くらい未解決問題だった問題を出した天才だからこそ仮説と言う考えを重要視していたのだと感じた。実際彼の本を読んでみたが、彼は専攻分野が広いため、各分野ごとの視点から見て仮説の重要性について説明していた。数学の視点での話がとても難しかった。
これらの感想からは、紙面の印刷されたよそよそしい文字列から出発し、読書・思索の道を延ばし、テクストと自分に立ちかえる姿がうかがえます。
テクスト・二次文献・クラスメイト・自分自身との対話を経て、生徒たちは普段しないような読書体験をできたのではないでしょうか。
これからも、知ること・つなぐことの楽しみやワクワクを忘れない、「自分の目」で物事を見つめる探究者であってくれればと願います。
※本単元は
山本貴光『マルジナリアでつかまえて』(本の雑誌社,2020)
片岡則男『マイテーマの探し方』(筑摩書房,2021)
を参考に計画した。
また、本稿冒頭の引用はショウペンハウエル(斎藤忍随訳)『読書について 他二篇』(岩波文庫青632-2)に依る。
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